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デザインの保護

作成者: 弁理士 杉浦健文|2023/02/06
 
【目次】
  1. 技術的なアイデアを保護する「特許権」
  2. モノの形を保護する「意匠権」
  3. 標識的なマークを保護する「商標権」
  4. 文化的なデザインを保護する「著作権」
  5. その他ー不正競争防止法ー
  6. まとめ
  7. この記事へのお問い合わせ

 あなたは「デザイン」と聞いてまず何を思い浮かべるべしょうか。あなたが知財関係者であれば意匠法や意匠権を思い受かべ、あなたがデザイナーであれば解題の解決方法である、と答えるかもしれません。

  ” デザイン(英語の Design“)は装飾のみならず、企画や設計といった広義の意味合いで用いられる語句です(”計画を記号に表す という意味のラテン語 ” 「designare」をその語源とする)。形あるモノに焦点を置くと、グラフィックやプロダクト、Web、ファッション、インテリアなどがあり、一方で UX やコトのデザインというような形に現れないデザインも存在します。


 このように、「デザイン」という語は一筋縄にはいきません。このカタカナ語はしばしば誤解されて伝達されることあり、この意味合いを当事者同士で明確にしておかなければ適切な保護を図ることができない場合があります。


・技術的なアイデアを保護する「特許権」

 デザインが単なるモノの外型にとどまらず、ある仕組みを有することでモノがより良く機能するというようにその仕組みが自然科学を利用した技術的思想・アイデアである場合には、特許権を取得することが可能です。

 例えば、刃に穴を設けることで切ったものがくっつきにくくなる包丁を新しく作ったとします(最近では全く新しくありませんが)。穴の形や数はその効果の大小には影響するものの、どんな形であってもくっつきにくくなるという効果をもたらします。このような場合は特許権の出番です。特許権は技術的な「アイデア」を保護する権利です。後述する意匠法・商標法・著作権法においてアイデアは保護の対象外です(不正競争防止法は知財保護というでは観点から設けられた法律ではなく毛色が異なるので説明から除きます)。刃に設けられた穴は、プロダクトの外型として現れていますが、これを意匠法で保護することとなると穴の形、数を特定することになるため保護の範囲が狭くなってしまうことがあります。アイデア自体を保護したい場合は特許権の取得を検討しましょう。

 ここで注意が必要なのは、特許権は権利化するアイデアの内容を世の中に公開する代わりに一定期間に限りそのアイデアの使用を個人に独占させるという権利です。そのため世に知られたくないアイデアであれば積極的に特許権を取得せず、ノウハウとしてとどめておくことが良いこともあります(例:コカコーラのレシピ)。


・モノの形を保護する「意匠権」

 最終製品(商品)のを保護するものとして意匠権があります。主としてプロダクトデザインの保護に利用されます。プロダクトのみならず、スマホアプリのアイコンやウェブサイトのレイアウト電子機械の表示画像といったいったものも保護対象に含まれます。近年の法改正により建築物や内装も保護対象に加えられました。

 例えば、切ったものがくっつきにくい刃に穴の空いた包丁自体のアイデアがすっかり陳腐化したものの、その穴の形が星形で斬新な形状であったとします。この場合技術的なアイデアはもう新しくないため特許権を取得することはできませんが、星形が新しいのであれば、意匠権の取得は可能です。また、特別な機能を有するわけではないが葉っぱの形をした佇まいが可愛らしい斬新な形の包丁を作ったとします。この場合も意匠権の取得を検討することが良いでしょう(参考:意匠登録第 1712808 号)。

【意匠登録第 1712808 号】

 

 ここで重要なのは意匠権はあくまでモノの形・模様・色彩といった目に見える具体的な形状を保護する権利です。ですからデザインコンセプトのような抽象的な概念は保護されません。つまり UX やコトのデザインを完全に保護することはできなということです。


・標識的なマークを保護する「商標権」


 文字や絵を駆使したロゴを作成して、このロゴを商売・ブランドの目印として使用する場合は商標権の取得を検討します。商標法はロゴ(文字、造語、絵単体も含む)そのものを保護する権利ではありません。そのロゴをどの商品・サービスに使用するか、つまり、ロゴと商品/サービスを一括りにした権利です。他人が自分が商売に使うロゴと同じか似ているロゴを同じ商品につけて販売するとなると、お客さんはあなたの商品と他人の商品を間違える可能性があります。このような状況を防ぎ、そのロゴが付された商品はあなたの商品であることを保証することを可能にするのが商標権です。もし創作物がブランドの目印となるものである場合は商標権の取得を検討しましょう。

 例えば、あなたが包丁に「スターナイフ」という名称をつけて販売する/している場合、商品である包丁についてこの名称を商標法で保護することをお勧めします。他にも小発明を保護する実用新案権を含めてこれら四つの権利が特許庁に手続きをして得られる権利(行政処分)です。実用新案権は除きますが、いずれも特許庁が審査をして登録を与えますから、権利化されたということは、そのアイデアや形が新しく簡単に作ることができないもの、また似たロゴが先になく、目印として機能することの一応の証明になりますから権利侵害を主張することが容易になります。

 他方、手続きを経ることなく取得できる権利も存在します。


・文化的なデザインを保護する「著作権」


 著作権の保護対象は人の思想や感情を表現したもの、かつ、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの(著作物)と規定されていますが、厳密に文芸などに属するものである必要はありません。ポイントは思想や感情を「表現」したものであることです。つまりアイデア自体は保護対象ではありません。


 例えば、あなたが包丁「スターナイフ」のイメージキャラクターとしてスターボーイなるキャラクターを生み出してそのイラストを描いたとしましょう。スターボーイというキャラの存在自体はアイデアであるため著作権で保護されませんが、イラストは著作権で保護されます。著作権は作品が完成した瞬間に発生し、特に手続きは要りません。


 イラストや文章、一品制作品などであれば比較的著作物性が認められやすいため著作権で対応すれば良い状況もありますが、実務においてはその対象が著作物であるかをどうかを争われる傾向にあり、この立証が難しいのが現状です。そのため安易に著作権に頼るのは好ましくありません。特にプロダクトデザイン(著作権では応用美術といいます)については、著作物の認定が厳しい傾向にあります。プロダクトデザインに関して著作権で対応するのは緊急避難的な考えだと捉え、なるべく意匠権を取得することをおすすめします。
 なお、応用美術と著作権についての関係は後日詳述したいと思います。


※上記の例で、もしスターボーイなるキャラクターのイラストを業務の一環として(業務の目印として)使用するのであればそれは著作権の保護対象であると同時に商標法の保護範囲にもなります。


・その他ー不正競争防止法ー


 アイデアやモノの外形、商標を保護していない場合であっても、不正競争防止法という法律によって保護される場合があります。自分が作ったモノとそっくりな形の商品を真似するという行為、自分が商品につけているマークとそっくりなマークを付けて販売するという行為、どちらも自ら企業努力をせずにその装いを真似て商売する行為です。このような行為を野放しにすることは、真っ当に開発を行う企業の努力を水の泡にするどころか損害を与えます。そのため法律で一定の行為を禁止し、違反があった場合にはその行為を止めさせ、刑事罰等を与えることとしています。

 代表的な不正行為として、①営業秘密の不正取得、②自己の周知/著名商品表示を使用する行為、③形態模倣行為があります。つまり特許権を取得していないようなアイデア(ノウハウ)を盗まれた場合、商標権を取得していないロゴがあなたの業務を示すものとしてよく知られたものになっている場合、意匠権を取得していない商品の形が真似された場合に用いられます。

 しかし実務において、②は自己の商品表示が周知あるいは著名であることを立証しなければならない点が非常に困難です。③は販売から3年以内という時期的な制限や、他人の商品の形態が自己の商品の形態に似ているでは足りずほぼ同じ形に限られるなど(意匠権は類似の範囲まで保護範囲である)、こちらも立証が非常に困難です。


 ですから、不正競争防止法による対応もあくまで緊急避難として捉え、なるべく権利化することをおすすめします。

・デザイン保護のまとめ


 デザインが技術的なアイデアに関係する場合は特許権、モノの形に関係する場合は意匠権、標識的なものに関係する場合は商標権というように、あなたの意図するデザインが何であるかと明確にすることで適切な保護法域を選択することができます。一方で、知財法ではまだ UX やデザインコンセプトといった抽象的な概念自体を保護することは叶いません。そういう意味では知財法はまだまだ万全ではありません。

 しかしながら予期せぬ紛争に巻き込まれないためにも最低限の権利化を検討することが大事です。十分に注意するようにしましょう。

 デザイン保護についてご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

 

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