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同意があれば全てヨシ??
コンセント制度導入
此度の法改正により、コンセント(同意)制度が導入されることとなりました(本年4月1日以降の出願に適用されます)。
原則として、他人の登録商標と同じ又は似ている商標であって同じ又は似ている商品やサービスの範囲について商標登録出願を行なった場合は登録を受けることができません(商標法第4条1項11号)。この原則はこれからも継続されますが、たとえ上述の先の登録の存在を理由に拒絶された場合であっても、その先登録の商標権者の同意があれば、例外的に登録を認めよう、というのが今回導入されたコンセント制度です(同法4条4項)。
ただし、同意があれば必ず登録されるというわけではありません。具体的には、出願した商標と先の登録との間で「混同を生ずるおそれがない」ものであることが必要です。つまり、実際に商品を買う消費者やサービスを受ける人の立場になって考えると、同じ企業の商品なのかな?と間違えそうなぐらいに紛らわしい商標は、たとえ両者間での合意があったとしても登録しない方が市場の混乱を防げるだろうから、このような場合は登録を認めない方が良いだろうだろう、とい事情が考慮されているということです。
たとえば、商標も商品も殆ど同じである場合は、混同を生ずるおそれがあると推測される可能性が高いといえます(そもそもこの様な場合に同意が得られるかどうかは別問題です)。混同を生じるおそれがないかどうかは、商標の類似の程度のほか、商標の周知度や取引の実情が考慮されます。また、混同を生じるおそれの有無は現在のものだけではなく、将来的なものまで要求されます。将来的な混同が生じるおそれの有無?といわれても正直なところ、どの程度の証拠が求められるのか、制度が始まったばかりで詳細はよくわかっていません。仮に審査基準等で求められている証拠の全てを提出しなければならないとすると、証拠の質も量も求められ、非常に手間のかかる工程になるでしょう。こういった事情から、コンセント制度が導入されたからといって全てヨシ!とはいえなさそうです。
アサインバックの有用性
コンセント制度が導入される以前は類似商標の全てが登録できなかったかというとそうではありません。先の商標登録と類似することを理由に拒絶された場合であっても、出願人を先の登録の商標権者に名義変更をし、登録査定後に再び名義変更をして出願人名義に戻すという、いわゆるアサインバックと呼ばれる手法で登録を行なっておりました。ニ度の名義変更が必要であることから煩雑で手間のかかる手続きで、コンセント制度導入により実行することがなくなるのではと考えられておりましたが、まだまだ有用性はありそうです。
なぜなら、上述の通り「混同を生じるおそれがない」ことの証明の程度や証拠の内容が不明確であるため、かえってその証明に手間がかかり、それならば初めからアサインバックで登録してしまった方が早いと考えられる場合もあるからです。
コンセント制度において、提出する同意書の形式はどんなものでもよく(極端に言えば、必要事項が記載されていればメールでもOK)、署名や印鑑すら必要ありません。ですが、現在又は将来的な混同を生じるおそれがないことを証明するために、別途契約書等が必要になるということもあるでしょうから、結局、手続き的な手間が軽減されるとは一概にいえなさそうです。こういった意味合いから、今後もアサインバックが有用である場合もあると考えております。
以上のように、コンセント制度が始まったものの、制度の運用の詳細が明らかになっていない以上、同意書を得られればそれだけで良いとはいえなさそうです。先の登録の商標権者との関係にも依るでしょう。だた、手段が増えたことは喜ばしいことですから、ケースバイケースでどの手段を用いるのが最善かを考慮し、商標権取得のサポートを行う所存です。
参考:
法4条4項
「第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。」
コンセント制度に関する審査基準(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/29_4-4.pdf)。
審査便覧
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/document/index/42_400_01.pdf
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/document/index/42_400_02.pdf
改正法解説(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2023/document/2023-51kaisetsu/12.pdf)
コンセント制度導入に伴い混同防止請求と取消審判も改正された(法24条の4二、52条の2第1項)。