鑑定書?見解書?調査報告書とはなにが違う?
前回のブログで事業の前には知財調査を行って侵害のリスクを減らしましょうと説明しました。
調査を行った場合はその内容をまとめて調査報告書を作成しますが、知的財産の世界には鑑定書や見解書も存在します。これらは調査報告書となにが違うのでしょうか?
鑑定書について
鑑定書とは、裁判や審判事件で意見を述べる際、主張の根拠として耐えうるように作成される書類をいいます。
一般的な知財調査と比べると、①侵害の成否のほか、②権利の有効性や③先使用権などの抗弁の有無まで幅広く調べてまとめる書類です。
「裁判で耐えうる」とあるので、実際に裁判になってから鑑定すればいいんですね?
と思われる方もいらっしゃいますがその考えは早計です。
例えば、X会社が自己の特許権を侵害をしていると思い警告書を送付しました。しかし実際に争ってみると、全くと言っていいほど権利を侵害しているような代物ではなく、結果として権利行使によって相手の業務を止めてしまったことで不法行為による損害賠償を請求された...なんて事案が実際に存在します。
特許権、意匠権、商標権の侵害の成否は専門家でも解釈が分かれることが多く、正確な判断が困難です。専門家に質問したなどの経緯があればとにかく、誰にも相談せず自己判断で警告書を送付したことに過失があり!、と判断されたというわけです。
このように、侵害が成立すると思いこみ、あるいは自身が持っている権利の有効性を確認せずに警告書を送付してしまうと、逆に損害賠償金を支払う目にあうことがあります。
裁判を踏まえた権利行使の前には、鑑定を行い、侵害の成否、権利の有効性などについて客観的な意見を踏まえて上で、警告書を送付するというような慎重さが必要になってきます。特に実用新案権は権利行使前に権利の有効性を確認することが必須ですからより注意が必要です(実用新案権は、制度上、権利行使前に実用新案技術評価書の請求が必要です)。
見解書について
見解書もレベルとしては鑑定書と同程度の内容でまとめられますが、肌感覚では、こちらは裁判などの証拠に使うというよりは内部資料として使用されることが多いように思います。簡易的な鑑定書という性質と考えていただければわかりやすいかもしれません。
例えば、稟議を通す際の証拠資料として使用するという場合があります。また、前回他社への製造依頼時に事前に調査報告書を提出して知財トラブルを防止することがあることを説明しましたが、この際に見解書を用いることもできるでしょう。事業の規模が大きくて調査報告書では心許ないという場合には慎重を期すという意味合いで見解書を用いることをおすすめいたします。
また、他の事務所での調査内容のセカンドオピニオンとして、その調査報告書に基づく見解書を作成するといった使い方も可能です。これによってより客観的な意見を担保することができます。
鑑定書・見解書作成のポイント
鑑定書・見解書は非常に高い専門性を駆使して作成される書類です。例えば、医者の世界は大きく外科と内科に分かれており、外科の中でも脳外科、心臓外科、整形外科・・・内科の中でも、呼吸器、循環器・・・など専門分野が分かれていますが、これは弁理士の世界でも同じことが言えます。特許でも電気、または化学が専門である、あるいは商標が専門である、というように各々に得意分野があります。ですから鑑定を依頼する際には、依頼先の弁理士が最も得意とする分野を把握しておいた方がベターです(大体は弁理士のプロフィールに掲載されています)。また、権利行使案件を多く行っている弁理士はそれだけ鑑定書の作成の数も多くなりますから経験豊富であるといえるでしょう。
仮に最初に依頼した弁理士の専門外であっても、弁理士には横の繋がりがありますので、ネットワークを駆使して得意な他の弁理士に繋ぐというようなことももちろん可能です。とはいえ、困ったらひとまずはいつも相談している弁理士に相談してみるということが良いでしょう。
判定について
鑑定書・見解書の作成は一般に弁護士や弁理士、学者といった専門家が作成することが一般的です。一方で、特許庁に判定を請求することも可能です。
判定とは、特許発明の技術的範囲や登録意匠の類似範囲、商標権の効力の範囲について、特許庁が請求に応じて中立・公平な立場から判断を示すものです。権利者の視点からいえば他人の使商品が自己の登録意匠との類似範囲に含まれるかを知りたい場合、実施者の視点からいえば、これから販売しようとする商品が、他人の登録衣装の類似範囲に含まれないか(権利侵害しないか)を知りたい場合に使うことができます。鑑定書や見解書にいう侵害の成否のところのみを特許庁が判断してくれるという制度です。
特許庁がやってくれるなら、鑑定書や見解書はいらないのでは?と思われるかもしれません。
この点、判定の内容は審決や裁判例と同じように内容が世の中に公開されます。もし自分にとって不利な内容の判定となった場合に、その内容が公開されると権利範囲が狭く解釈されるといった不利益を被るかもしれません。判定は特許庁が行うものですが法的拘束力を有するものではありませんから裁判等で反証が可能ですが、心象が悪くなるというデメリットがあるため注意が必要です。
まとめ
鑑定書は権利行使の一歩手前で用いるもので、見解書は重要案件を前に進める際に用いるものです。どちらも高度な専門性を駆使した客観的な意見を担保するものです。これに対して特許庁が侵害の成否を判断してくれる判定といった行政サービスもあります。進める案件の重要性によって、またはコストによって鑑定書を作成するのか、それとも内容が公開されるといったデメリットに目を瞑って判定を請求するのか、そのあたりも含めて弁理士に相談することが良いかと思います。
弊所、知的財産事務所エボリクスでは、鑑定書・見解書・調査の作成を多く行っております。いつでもご相談ください。