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ファッションと知的財産
今回はプロダクトの中でも特にファッションの分野、いわゆる、ファッションローについてお話いたします。
「ファッションロー」とはファッションビジネスに関する様々な関連法域の総称をいいます。IT技術の発展により2000年代初頭ぐらいから、コレクションで発表されるや否や、その模倣品が作られ販売されるといった問題が生じました。
そこで模倣品対策を含め、ファッション産業の発展のためファッション分野に特化した法律の研究が進められることとなりました。ファッション分野はプロダクトの中でも特に流行に左右されるものであり意匠法で保護し難いという性質があります。
あなたがファッションブランドを立ち上げる時にはどのようなことに気をつければ良いでしょうか。
応用美術とファッションデザイン
ファッションデザイン(ここでは衣服の外形を意味します。)もプロダクトデザインの一種ですから著作権法上の応用美術に該当します。応用美術が著作権で保護されにくい点は過日ご説明した通りです。
参考:https://www.evorix.jp/blog/プロダクトデザインと著作権
綿麻刺繍アンサンブル事件(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/572/086572_hanrei.pdf)においては、花柄刺繍部分のデザインが応用美術として著作権法上保護され得るかが争われました。
"原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の 一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また,同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても, 両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。"
いくつかの商品について争われたため、原文では原告商品2と記載されています。このように、原告商品の著作物性が否定されました。やはり著作権に頼るのは心もとないと考えます。
一方で、例えば、とあるイラストをプリントして作ったTシャツなど、イラスト自体に著作物性があれば著作権侵害を主張できるでしょう。この場合は衣服の形状ではなくイラストを模倣したという性格を有しますから厳密にファッションデザインを著作権で保護できているとは言い難いです。
以上からファッションデザインも意匠法で保護することが好ましいです。
しかし、衣服のデザインは流行の影響を強く受けますから1シーズンでデザインを変更することが多く、アイテム数も多いために全てのデザインを意匠出願することは現実的ではありません。一部は後述する不正競争防止法に任せ、ブランドのアイコンになり得る特異なデザインである場合には、意匠権を取得するようにしましょう。
また、鞄や靴といった比較的ファションの中でもライフサイクルが長いアイテムについて意匠権を取得するのも得策です。
意匠権は新しいデザインでなければ取得できません。一度世に出してしまうと権利化できなくなります。この点、例外として世に出した日から1年以内に限り登録を認めるという制度があります(これを新規性喪失の例外適用と言います)。
「世に出す」といってもインターネットで、雑誌で、テレビで、といったように世に出す行為が複数あることが普通だと思います。現状、新規性喪失の例外適用の手続きはそれら全ての行為を説明し、その都度証明をしなければならないのもので非常に手間のかかる手続きとなっております。
しかし、つい先日に改正法案が閣議決定され、数多くある世に出す行為のうち、最初の行為について証明書を提出すれば登録が受けられるようになります。人の目につきやすい意匠、ファッションデザインに即した素晴らし改正です。
今後、意匠権の取得の手間が省けることになりますから積極的に出願するようにしましょう(https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230310002/20230310002.html)
不正競争防止法とファッションデザイン
意匠権を取得していないファッションデザインであっても、デッドコピー品に対して不正競争防止法に基づいて権利行使が可能である場合があります(商品形態模倣[不正競争防止法2条1項3号])。特に重要なデザインの衣服については意匠権を取得することにして、その他のアイテムは苦肉の策ではありますが不正競争防止法に頼ることとしましょう。
だだし、オリジナルの商品が日本国内で販売された日から3年以内でなければなりません。また部分的な形態だけではなく、全体の形態が実質的に同一である必要があります(類似の範囲は認められません)。実質的同一とは、”殆ど同じ”でなければならないということです。参考までに模倣が認められたケースと認められなかったケースを紹介します。
まずは、模倣が認められたケースです。
"両商品は,1丸首襟の形状をしていること,2前身頃のボタン部の左右部分に,縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が設けられていること,3その外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせとなっているという,両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そして,両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。"
こちらは模倣が認められなかったケースです。
"原告商品1は,袖ぐりが,肩の大きく出る(肩山部分がほとんどない)アメリカンスリーブと呼ばれるものであるのに対し,被告商品1の袖ぐりは,肩が隠れる(肩山の幅が襟ぐりから腕の付け根辺りまである)ものである点において相違がある。また,原告商品1は,両脚の腿辺りの位置から下方に向かって絞られた,マーメイドラインと呼ばれるシルエットであるのに対し,被告商品1は,両脚の腿辺りの位置から下方に向かって絞られていない,Aラインと呼ばれるシルエットである点で相違している。・・・袖ぐりについては,肩が大きく出るものであるか,肩が隠れるものであるかによって,着用する下着の形態が異なってくるほか,肌の露出度合の観点での印象が大きく異なるのであって,商品購入の際の重要な考慮要素となる形態の相違である。また,マーメイドラインと呼ばれるシルエットであるか,Aラインと呼ばれるシルエットであるかについても,マーメイドラインでは,着用した女性の腰や脚のラインが強調されるのに対し,Aラインでは,腰や脚の部分にゆとりがあり,身体のラインが強調されないという相違があり,着用時の全体的な印象が大きく左右されることから,前記同様に商品購入の際の重要な考慮要素となる形態の相違である。"
上記の形態模倣のほか、形態自体が顧客吸引力を有するほど有名な形態となっている場合も不正競争に該当するのですが、実際に裁判で争われ、差止めや損害賠償請求が認められたケースは、エルメスのバーキン、ISSEY MIYAKEのBAOBAO等、名だたるブランドである場合が多く、非常にハードルが高いものです(周知商品等表示・著名商品等表示[不正競争防止2条1項1号、2号])。
ですから不正競争防止2条1項1号、2号に積極的に頼ることは得策ではありません。スタートアップ時にはほぼ勝てる見込みは少ないでしょう。
商標法とファッションブランド
ブランド名を商標登録するのはマストです。この点、ことファッションにおいては自分の氏名をブランド名として使用することが多いかと思います。以前、氏名の商標登録が認められにくくなっていると説明しました(参照:https://www.evorix.jp/blog/人名フルネームの商標登録)。
その際、要件緩和について話し合いが行われているとお話をしましたが、その改正法案が閣議決定され、一定要件の下でフルネームの商標登録が可能となります。改正法が施行されるタイミングを見計らって登録するようにしましょう(https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230310002/20230310002.html)。
こちらもつい最近の話です。ファッションローに関して経済産業省から「FASHION LAWGUIDEBOOK 2023」が公表されました。
このガイドブックは、ファッションビジネスの現場で直面する法律の問題等がチェックリストにまとめられ、かつ、基本のポイントを解説するものとなっています。ブランドを立ち上げたらすべきこと、ブランドを守るためにどのようなことができるか、
一方で、やってはいけないことも網羅的にまとめられているのでとても参考になります。ブランドを立ち上げた方は一読することをお勧めいたします。
FASHION LAWGUIDEBOOK 2023:
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/fashionlaw_wg/pdf/20230331_1.pdf
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